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レオ・ヌッチ

レオ・ヌッチ(バリトン)
Leo Nucci

「偉大なレオ・ヌッチ」の理由〜レオ・ヌッチ バリトンリサイタルへの期待
 加藤 浩子(音楽評論家)

 客席が息を飲んでいるのが分かった。

 《シモン・ボッカネグラ》、第1幕第2場。全曲のハイライトに数えられ議会の場面で、緊迫の情景が繰り広げられている最中に、そろそろと下がりかけ、途中で止まってしまった緞帳が、演出ではなく、ハプニングだとわかったからだ。
 舞台上の歌手たちも、その場に立ちすくんだまま、とまどっているようすが伝わってくる。
 何分も過ぎたような気がした。けれどほんの数十秒だったかもしれない。何事もなかったかのように歌い始めた主役のレオ・ヌッチの堂々とした声が、凍りついていた客席と舞台の空気をたちまち解き放ったのだ。止まった血が再び流れ出したように、劇場は一瞬にして活気づいた。歌手はそれぞれの役柄に戻り、聴衆は安堵し、そして緞帳もまた、何事もなかったかのようにするすると上がり始めたのである。レオ・ヌッチという偉大な歌手の、まさに「鶴の一声」に引っぱられて。
 レオ・ヌッチは、現代にはまれな劇場人である。すべての声、すべての動作、すべての表情に役柄が投影され、生命を注ぎ込まれて息づくのだ。この3月、イタリアのモデナの劇場で観たこの《シモン・ボッカネグラ》も、劇場のひとヌッチの至芸が凝縮された舞台だった。表情と声と動作が一体となり、シモン・ボッカネグラという多面的な人物を描き尽くす。男としての迷いと悲しみ、父としての苦悩と歓びと愛、政治家としての誇りと矜持と寛大さ、その場面ごとに表現されるそれぞれの感情が息を吹き込まれ、観客に迫ってくるのだ。離れ離れになっていた娘との再会では皺の1本1本までが歓びに輝き、娘と政敵との恋を知る場面では苦さが顔を浸し切る。大詰めの死の場面では、まさに天国に飛び行くような安らぎが、音楽とともに劇場を満たした。シモンの一生をともにたどったという充実感。そんな感慨を味あわせてくれる歌手は、今、レオ・ヌッチをおいてほかにいないだろう。レオ・ヌッチは、歌と演技の両方で、イタリア・オペラという伝統芸を極めている歌手なのだ。
 同時にヌッチほど、舞台で「人柄」を感じさせてくれる歌手もいないように思う。どんな悲劇を演じていても、カーテンコールでは明るく温かな笑みを顔いっぱいに浮かべ、共演者たちを気遣うゆとりを見せて、観客を幸せな気持ちで包み込んでくれるのだ。またヌッチの舞台に足を運ぼう、オペラでもリサイタルでも、彼のカーテンコールに接するたびにそう思ってしまう。同僚のイタリア人歌手や指揮者たちが、しばしば彼を「偉大なヌッチ il grande Leo Nucci」と形容するのもよくわかる。
 私事でたいへん恐縮だが、多くのひとが絶賛するヌッチの「人柄 personaggio」に初めて触れた時のことは忘れられない。初めて彼にインタビューした時、たどたどしいイタリア語で「イタリア・オペラの伝統は途絶えつつあるのではないでしょうか」と尋ねた筆者に、彼は言ったのだ。「その質問をきけば、あなたがオペラを愛し、理解していることがわかる」と。イタリアの人間国宝のような歌手が、どこの青二才とも知れない初対面の人間のつたない質問を真摯に受け止め、オペラへの想いを汲み取ってくれる。僭越だが、その時こみあげてきた嬉しさを、筆者は決して忘れないだろう。
 「あなたの歌、あなたの舞台、あなたの人柄に出逢えたことは、私の人生の宝です」
 モデナでの《シモン・ボッカネグラ》の終演後、いまだにつたない言葉でそう伝えたら、ヌッチはとても喜んでくれたのだった。
 レオ・ヌッチという偉大な歌手が筆者の心のページに残してくれた、人生の1ページのような数々の舞台の記憶。この秋そこにまた新しい1ページが加わるかと思うと、嬉しくて仕方がない。アリア1曲にもその場の、そしてその作品のすべてのドラマを描き出してくれるヌッチ。70を越えてさらに磨きのかかるその至芸のゆきつく先を見届けられる一夜を、今から心待ちにしている。

 
曲目

前半

ロッシーニ:《セビリャの理髪師》~“私は町の何でも屋”
G.Rossini : «ll barbiere di Siviglia» ~ “Largo al factotum”
トスティ:初めてのワルツ(インストゥルメンタル)
F.P.Tosti : First Waltz(strumentale)
     :君なんかもう / 魅惑
     :Non t’ amo più / Malia
ファルヴォ : 彼女に告げて
R.Falvo : Dicitencello vuje
ヴェルディ:煙突掃除屋(インストゥルメンタル)
G.Verdi : Lo spazzacamino (strumentale)
     :亡命者
     :L’ esule

後半

ベッリーニ:《清教徒》~“ああ、永遠におまえを失ってしまった”
V.Bellini : «l puritani» ~ “Ah! Per sempre io ti perdei”
ロータ:映画音楽のテーマ(インストゥルメンタル)
N.Rota : Temi da films (strumentale)
レオンカヴァッロ:四月
R.Leoncavallo : Aprile!
ジョルダーノ:《アンドレア・シェニエ》~“国を裏切る者”
U.Giordano : «Andrea Chenier» ~ “Nemico della patria”
マルカリーニ:《ファルスタッフ》~“九重唱”(インストゥルメンタル)
P.Marcarini : Falstaff’s Notturno (strumentale)
ヴェルディ:《ドン・カルロ》~ “終わりの日は来た”
G.Verdi : «Don Carlo» ~ “Per me giunto è il dì supremo”

※演奏家の希望により、曲目等公演内容に変更が生ずる場合もございます。あらかじめご了承ください。
※未就学児童の入場はご遠慮ください。

レオ・ヌッチ
バリトン・リサイタル

2014年11月28日(金)19時
Friday, 28 November 2014 at 7p.m.

東京オペラシティコンサートホール/タケミツメモリアル
Tokyo Opera City Concert Hall

チケット発売日

友の会優先発売:発売中
DM会員優先発売:発売中
一般発売:発売中
  
*友の会およびDM発売は東京プロムジカのみで受付

チケット価格(税込)

S:¥19,000
A:¥15,000
B:¥11,000
C:¥8,000

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03-3372-7050

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東京オペラシティチケットセンター
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0570-000-407(オペレーター/10:00~20:00)
http://l-tike.com

主催:
東京プロムジカ

協力:
アリタリア-イタリア航空

後援:
イタリア文化会館
NPO日本ヴェルディ協会

 
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